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大学1年の頃、学校のプログラムで山形県庄内地方へ行った。プログラムの内容は、現地観光および大学所有の研究所見学、山伏体験をするというもの。今日はその山伏体験の話。

山伏とは特定の山に登って修行する修験道の行者の事だ。その体験ということで、僕を含めた参加者は全身白装束に着替えさせられ、山へと向かった。参加者には女性も含まれており、その白装束姿はかなりかわいい。山伏も悪くない。

さて山伏修行には滝行や断食という耳馴染みのあるものに始まり、火渡りや南蛮いぶしというマイナーなものまであった。

火渡りは火柱の上をジャンプして飛び越えるという大学生のやるチキンレースのようなもの。南蛮いぶしは閉めきったお堂に数十名が押し込まれ、唐辛子や蓮を焼いて出る煙の中で黙想するというもの。密室に充満した煙は眼球に刺さるは、肺を焼くはで、唐辛子が仕事しまくり。実質10分、体感60分の酸欠体験を経た僕は酸素が足りなくて、足りなくて。酸素に会いたくて、会いたくて。西野カナばりに体が震えた。

 

ところで余談だが、僕は西野カナの彼氏にだけはなりたくないなと思う。彼女が想いを綴った歌詞を介して、彼女の本音をひりひりと感じさせられそうだから。例えばMステなんかを見て、

「なんか、うちの彼女めっちゃ震えてるんですけど……最近なんかあったっけ…」

みたいに思いそう。疲れそう。

 

閑話休題
さて山伏体験の中でも特に印象深かったのは滝行だ。

あなたは滝行をやった事はあるだろうか?

あれ、すごいですよ。
煩悩抜け落ちまくり!!

 

滝に打たれて目を閉じる。

すると水と水のぶつかる音が聴覚を支配し始める。

さらに時間が経つと、なるほど、
体温が水温に馴染んでいく。

次第に自分の肉体と水の境界が曖昧になっていき、自分が自然の一部に飲み込まれていく。この時、人間≠自然という現代的なある種の自惚れが自分にあったなと考えたりした。

これはスピリチュアルな才能が全くない僕でも、五感を介して強制的に感じさせられた。非常に興味深い感覚だった。

 

 

 

さらに滝に晒されていると、煩悩が水に溶け込んで流れていくような感覚になる。自分の身にこびり付いたあれやこれやが少しずつ少しずつ剥がれていく感じ………

 

 

 


                              無

 

 

 


滝行が終わって、聖人君子となった僕。

緑で濾過された柔らかい陽の光に包まれる。

風が気持ちいい。

おはよう世界。

滝を仰ぎみようとした瞬間、視界の端で女性参加者達を捉えた。

 

 

 

                              ∞

 

 

 

びしょ濡れの白装束から黒い水着が透けていた。

煩悩爆発。零が無限になる瞬間。

…おはよう世界。