Dreams Never Come True
"メット5回ぶつけたり ブレーキランプ踏んだり
ア・イ・シ・テ・ル って伝えられるかな"
吉田美和は愛しい彼の背中を見て帰路に着き、未来予想図を夜空に浮かべる。
素敵だ、こんなことやってみたい。
さて、僕はというと。
未だ未来予想図は白紙のまま。
何がよくないのだろう?
色々考えすぎなのかもしれない。
例えばこんな事を考える。
"ブレーキランプ5回て、それ何とでも解釈できるじゃん?"
ア・イ・シ・テ・ル
まあそういう解釈もありうる。
でも
ナ・カ・ビ・シ・ャ
と得意な将棋の戦法を伝えているとも。
ジ・ミ・ン・ト・ウ
と政治的な立場を表明しているとも取れる。
光の点滅に、一意な解釈などありうるのか?
考えてしまう。
あ、ある!
………モールス信号。
http://www.benricho.org/symbol/morse.html
ブレーキランプの長い点滅は1回で"ム"を表す。すなわち。
彼はこう伝えていたのだ。
"ム・ム・ム・ム・ム"
この差である。
考え過ぎかもしれない。
しかし僕にだって未来予想図くらい描かせて欲しい。しかたないここに描こう。
---声が形を持ち始めた冬の夜、原付の後で彼女は僕の背中にしがみつく。今夜ばかりは寒さが温かい。
彼女の実家が少し遠くに見えたら原付を止める。ゆっくりと背中から離れる彼女に、僕は事前に印刷しておいたA4のモールス信号50音表を静かに渡す。
そして少しずつ離れていく彼女の背中を見つめる。予定調和的に彼女が振り返ったその時。
ブレーキランプの長さを絶妙に調整しながら、
長点滅,長点滅,短点滅,長点滅,長点滅,一拍
短点滅, 長点滅,一拍
長点滅,長点滅,短点滅,長点滅,短点滅,一拍
短点滅,長点滅,短点滅,長点滅,長点滅,一拍
長点滅,短点滅,長点滅,長点滅,短点滅
僕は暗闇の中で微笑み、彼女もきっと微笑み。僕は原付のペダルをゆっくりと踏み込み、夜の街に帰る。
キモ過ぎ。
本質は記号どうこうではないようだ。
モールス信号の変換表なんてなくても、吉田美和にとってブレーキランプはサインで。逆に伝わらないサインはサインですらなくて。
僕なんかはブレーキランプ踏むより、まず声を出すべきかもしれない。